大阪高等裁判所 昭和31年(ネ)1514号 判決
控訴人
国
右代表者
唐沢俊樹
右
指定代理人 麻植福雄
同
中川利郎
神戸市生田区北長狭通二丁目十五番地
被控訴人
箕輪広吉
右訴訟代理人弁護士
小松克己
右当事者間の頭書事件について、当裁判所は昭和三十二年十二月三日終結した口頭弁論に基いて、次のとおり判決する。
主文
原判決を取消す。
被控訴人の請求を棄却する。
訴訟費用は、第一、第二審共被控訴人の負担とする。
事実
控訴人国指定代理人は、「主文と同趣旨」の判決を、被控訴人訟訴代理人は、「控訴棄却」の判決を求めた。
当事者双方の主張した事実関係は、原判決一枚目裏八行目に「被告」とあるのを「箕輪孝次郎」と訂正する他原判決の事実記載と同一であるから、これを引用する。
証拠関係につき、被控訴人訴訟代理人は、甲第一号証を提出し、原審証人箕輪都美子、原審及び当審証人箕輪孝次郎の各証言、竝に原審及び当審での被控訴人本人尋問の結果を援用し、乙第一号証の成立は否認する。同第二号証の一は被控訴人作成名義の部分は成立を否認し、その他の部分は不知、同号証の二、同第五号証の二、及び同第六号証の一ないし三はいずれも成立を認める。その他の乙号各証はいずれも不知と述べ、控訴人指定代理人は、乙第一号証、同第二号証の一ないし三、同第三、四号証、第五号証の一、二、同第六号証の一ないし三を提出し、原審での証人山之内良一、同馬島俊彦、同芦田英雄、当審での証人千葉登、同松岡正治、同鳥居三之の各証言を援用し、甲第一号証の成立を認めると述べた。
理由
原判決末尾添付の目録記載の不動産(本件家屋と言う)につき、昭和二十九年五月十九日神戸地方法務局に於て同日受付第七二九九号を以て被控訴人より箕輪孝次郎に同年二月一日の売買を原因とする所有権移転登記がなされたこと、右孝次郎は昭和三十年二月二十八日控訴人との間に自己の昭和二十九年度贈与税六十五万円の租税債務を担保するため、本件家屋に抵当権設定契約をし、控訴人の嘱託に基き同年九月二十七日本件不動産につき、前同法務局に於て同日受付第一五三四九号を以つて右契約に因る抵当権設定登記がなされたことは当事者間に争がない。
しかして被控訴人は前認定の売買による所有権移転登記は孝次郎が被控訴人の印鑑等を冒用した偽造の書類を用いて檀にしたものであつて、被控訴人と孝次郎との間には本件家屋につき真実売買による所有権の移転があつたことはなく孝次郎は本件家屋の所有権を取得していないから、孝次郎と控訴人間の前認定の抵当権設定契約は無効であり、従つてその設定登記は原因を欠く無効のものであると主張するから検討する。
原審及び当審での証人箕輪孝次郎、原審での証人箕輪都美子の各証言、並に原審及び当審での被控訴人本人尋問の結果の中夫々被控訴人の右主張に副う部分は後記各証拠に照し信用することができないし、当審での証人千葉登の証言を以つてしても被控訴人の右主張事実を認めうる資料とはならないし、他に被控訴人の右主張事実を肯認するに足る証拠はない。むしろ孝次郎は被控訴人の養子であつて被控訴人は先妻タマの死亡後昭和二十五年二月二十八日後妻たよと婚姻したことの当事者間に争のない事実と、成立に争のない乙第六号証の一ないし三、原審での証人山之内良一の証言によつて真正に成立したと推認しうる乙第三号証、同第五号証の一に、原審での証人山之内良一、同馬島俊彦、同芦田英雄、当審での証人松岡正治、同鳥居三之の各証言並に原審及び当審での証人箕輪孝次郎の証言の一部、同被控訴人本人尋問の結果の一部を総合して考えると、被控訴人には孝次郎とその兄岡本玉吉との二子があるところ被控訴人は本件家屋とその一軒置いて北側に在る家屋(北の店舗と言う)とを所有し右両家屋を店舗として株式会社組織で玉広亭の屋号で飲食店を営んでいたが、予てから被控訴人の後妻たよと孝次郎の妻との仲が円満にいつていなかつたことから、昭和二十八年末頃孝次郎を本件家屋で右玉広亭の営業から独立して営業させようと言うことになり、昭和二十九年一月一日以降玉広亭の営業を北の店舗のみに縮少し、孝次郎は本件家屋で独立して飲食店を営業することになつた、そして同年二月一日被控訴人は本件家屋を孝次郎に贈与したが、税の関係を考慮して同年五月十九日前認定のように売買に因る所有権移転登記をした、しかし所轄神戸税務署から贈与であることを看破されたので孝次郎は昭和三十年二月二十八日神戸税務署に対し右贈与による贈与税七十八万三千五百二十円の申告をすると同時にその延納及び分納の申請をしその中六十五万円につき分納が認められたので、前認定のように右六十五万円の贈与税債務を担保するため控訴人との間に本件家屋に抵当権を設定し、その旨の登記がなされたものであることが認められる。
そうすると箕輪孝次郎は昭和二十九年二月一日被控訴人より本件家屋の贈与を受け所有権を取得し、これに控訴人のため抵当権を設定したのであるから右抵当権設定契約は有効であり、従つてその設定登記の有効であることは言うまでもなく、右設定登記が原因を欠き無効であるとしてその抹消登記手続を求める被控訴人の本訴請求は理由がない。
それ故被控訴人の本訴請求を認容した原判決を取消し、被控訴人の請求を棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九十六条第八十九条を適用して主文の通り判決する。
(裁判長判事 大野美稲 判事 小野田常太郎 判事 喜多勝)